旅日記~洋館巡り2~

次に向かった、「洋館長屋」と呼ばれている建物は2軒の家が左右対称につながって建てられていて、もとは外国人向けのアパルトマンだったそうです。アールデコ調の部屋があったり、アールヌーボーのガラス工芸のコレクションがあったりと、どうやらここはフランス風がテーマのよう。

 

のんびりアンティークを眺めて回っていたら、なぜか唐突にフランス映画『アメリ』の主人公アメリの部屋が再現されていました。一目見て既視感を覚え、それから赤を基調にした壁紙とおしゃれなベッド、壁にかかったミヒャエル・ゾーヴァのシュールな絵、大きなノームの人形、電気スタンドの根元の人形(これもゾーヴァ作)まで見回して、やはりアメリの部屋だと確信。何の解説もなく、時代も新しいものなので驚きました。

 

主人公アメリは人と関わるのを恐れて、現実世界に自分の空想を混ぜた独特の世界に閉じこもって生きてきた女性で、その世界ではゾーヴァの作品のキャラクターたちは動いたり、ものを言ったりして、現実の人間よりも親しい存在として描かれます。ゾーヴァはこの映画で一気に知名度が上がり、たしか私が高校生の頃だと思いますが、東京でも展覧会が開かれたので行きました。シュールで風刺が効いたモチーフを無機質に淡々と描いていて、そのギャップがまたおかしいというような絵がたくさんありました。

 

そんな事を考えながら隣の部屋に進むと、なんと次はゾーヴァの世界でした。ということは今度はドイツ?フランス風はうっちゃっていいのだろうかとも思いましたが、アメリからのつながりなのでまったく関連がないわけではありません。

インテリアは、ゾーヴァ独特のくすんだ色合い、中でも特によく使われている灰色がかった緑色が基調となっています。無味乾燥な印象のおじさんがぼうっと虚ろに座っている窓の外には、ペンギンが空を飛んでいるという珍事が起きていて、テーブルの上ではスープの中でブタが水浴し、ちいさなちいさな王様が癇癪を起こしてコーヒーに角砂糖を投げ込んでいました。わお!

 

いくつもの絵本の場面を詰め込んだ面白い部屋になっていましたが、「この部屋は何だろうね」と訝しげに通っていく人も多く、まあ、誰もが知っているような絵本ではないものね、と思いながら他の部屋も見ていき、出入り口の窓口に詰めている女性に「2階はアメリの部屋とミヒャエル・ゾーヴァの部屋なんですね。ゾーヴァつながりで展開しているのが面白かったです。」と話しかけると、短い沈黙の後、「えっ!!あれがわかったんですかっ?!」と勢い込んで訊き返されて、こちらが驚きました。

なんでも、デザイナーさんの発案であの部屋を作ってみたものの、アメリに気づくお客さんはたまにいても、ゾーヴァはわかってもらえないのだそう。「ここにいらして、ミヒャエル・ゾーヴァとおっしゃったお客様は、私が把握している限りいませんよ。他の係りの者にも聞いていません」とまで言われてしまいました。そのデザイナーさんに親しみを感じる一方、わかってもらえないのは私も残念です。

アメリのブームが去って久しいとはいえ、そんなものでしょうか。映画の曲を流せばもっと多くの人がアメリの部屋だと気づくでしょうし、そこでもゾーヴァをぜひ紹介してほしいものです。そして次の部屋には作品の解説や手に取れるようにした絵本などを置いたら、きっとゾーヴァを知らない人でも楽しめるはず。ゾーヴァ好きとしては、少々惜しい気がしました。

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コメント: 2
  • #1

    ボッコちゃん (月曜日, 04 3月 2019 22:38)

    ゾーヴァの絵はよく見るけど絵本も今度読んでみます。子熊がテーブルの前に座っている絵がお気に入り♪

  • #2

    凹太 (月曜日, 20 5月 2019 03:46)

    自分もその他大勢です。何のことか分からなかったと思います。教養の範囲の広いのに感心します。試験を受けて自分しか解けなかった問題のようでなんとなくうれしかったのでは。