頼もしき精鋭たち

右上は暇つぶしに作った、練り消しゴムのウサギ像
右上は暇つぶしに作った、練り消しゴムのウサギ像

誰にでも仕事の集中が切れるときや、うまくいかなくてイライラと心が乱れるときというのがあると思います。原因やその対処法も、きっと人によってさまざまなのでしょう。

 

私にももちろんそういうときがあります。そんなときは、気分に合った紅茶を丁寧に淹れて一息ついたり、庭をぐるりと一周しながら植物をながめたり、新聞を読んだり、いっそ掃除を始めてしまったりします。

しばらく机から離れて気分転換してから戻ると、たいていはまた作業ができるようになるのですが、それでもだめなときはなにをするべきか。

鉛筆を削る、というのもいいものです。

 

美術予備校に入ったころ、「6Bから6Hまで用意してね」と講師に言われ、「そんなに使うの?」と驚きながら、それぞれの濃さを一本ずつ買いました。でも、鉛筆はデッサンに使うとあっという間に芯が摩耗するので、「一本ずつでは全然足りない!」と気づいて、あわてて買いに行ったり。なにも知らなかった自分を思うと、なんだか微笑ましく感じるほどです。

受験中には鉛筆を削る時間も惜しいので、よく使う濃さの鉛筆などは1ダースも削って、いつでもすぐに出せるように用意していました。緻密で正確なデッサンを描こうというときに、先の丸まった鉛筆では役に立ちません。”必要な時に先のとがった鉛筆がない”というのは、あのころの私にとって恐怖でした。”受験の真っ最中に、道具箱の中の鉛筆がすべて丸まってしまっているのに気づいて焦る”という悪夢さえ、何度か見た気がします。

 

今では、受験生のように大きなデッサンを描く機会はほとんどなく、鉛筆の使用量も減りましたが、それでも鉛筆は山ほどあります。百本は軽く越すだろう鉛筆たちから、先が丸まったものを選り分け、片っ端からカッターナイフで無心に削っていくのです。

芯のやわらかさや太さ、金属質の芯の硬さ、木質の材質や密度、削りやすさ、メーカーによる違い……目と手から入ってくる情報以外を忘れて黙々と削り続け、顔を上げると、いつの間にかずいぶん時間がたっていることに気がつきます。先が丸かった鉛筆たちもすべてとがって、いかにも”精鋭部隊”という顔をして並び、どこか誇らしげにさえ見えます。なんと頼もしい!

机の上にとがって先の利きそうな鉛筆がずらりと並ぶと、また頑張れそうな気がしてくるから不思議です。

 

鉛筆は使うたびに削られて短くなっていってしまいますが、順調に描いているときも、いい絵が描けないまま時間ばかりがすぎていくようなときも、文字通り身を粉にして(!)私につきあってくれます。革製品などをよく使いこんで風合いを持たせていくことを「育てる」と言うことがありますが、鉛筆も下ろしたての長いものはそっけないし、鉛筆ホルダーで挟めないくらい短くなるまで使ったものには、やはり愛着がわきます。

 

小学生でも電動の鉛筆削りを使う時代ですが、絵を描くには芯を長く使えるよう角度をつけて削るので、カッターナイフなどが使われます。なんでも使い捨てたり機械で用をすますことが増えている中では逆行と写るかもしれませんが、そうやって手間をかけて道具を大事に使うことに、”人間”と”道具”のひとつの形を見るような気がします。ペンや万年筆でデッサンするのも大好きですが、鉛筆とのつきあいはまだまだずっと続きそうです。

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コメント: 3
  • #1

    ボッコちゃん (日曜日, 25 6月 2017 23:27)

    小学校入学当初、鉛筆は自分で削っていました。側面を削って名前も書いていました。鉛筆削りなる物が出て嬉しかった事を思い出しました。UNIの鉛筆を初めて買った時はちょっとリッチな気分がしました。たぶん高校生の時だと思います。筆圧が強い為シャーペンとは相性が悪く鉛筆派です。短くなって使えなくなった鉛筆はどうするのでしょうか。針供養はあるけど鉛筆供養もしてあげたくなります。

  • #2

    凹太 (月曜日, 03 7月 2017 08:47)

    鉛筆持ちですね。こちらでは日本に良くあるハンドルを回す鉛筆削りはほとんどなく、大人から子供までナイフも使わず、親指と人差し指で挟む1㎝ぐらいの金属製の鉛筆削りに鉛筆を入れてくるくると回しています。シャープペンはほとんど使われていません。あってもすぐ芯が折れてしまい、書くと紙に引っかかり書き心地は良くありません。しかも一度ノックすると芯が5㎜ぐらい出てくるので、ノックしたまま指で芯を押し戻してからではないと使えません。イライラするので今では日本製を愛用しています。

  • #3

    Nana (月曜日, 28 8月 2017 01:13)

    ボッコちゃん>>予備校に入ってからたくさんの鉛筆を使いつぶしてきました。途中までは全部取ってありましたが、たしか一度処分したような。丁寧にお礼を言ってから・・・。確かに、筆供養は多摩美の文化祭でもやりますが、鉛筆供養は聞いたことがありません。あってもいいのにと思います。
    凹太さん>> 文房具はやはり日本製のものにはかないません。ヨーロッパでも、安い鉛筆などはカリカリと紙に引っかかるばかりで書きにくかったりしますが、日本は安い鉛筆でもそんなひどいものはめったにありません。ぜいたくを言うなら、日本の文具のデザインはまだまだ改良できそうですけれど!