長崎への旅(1)

長崎を旅してまいりました。思えば、「これが終わったらどこか旅に出よう」と思って個展の準備を頑張っていたのが4月のこと。そのあとも何かと時間が取れず、「ああ、旅したい。遠くに行きたい」とずっと思い続けたまま冬になってしまいました。

あんまり思いつめたせいか、ある日突然、家族にも何も告げずにあてもなく電車に乗り、終点からまた適当にバスに乗り、どんどん山深き方へと入り込み・・・・・・という、夢を見ました。目が覚めて、自分でも「これは相当きてるな」と呆れましたが、きっと限界だったのでしょう。それならばと、翌日には飛行機と宿の予約を入れました。

ちなみに夢にはもう少し続きがあり、乗っているバスがさびれた温泉地に差し掛かり、「もう日が傾いてきた。冬の昼は短い・・・・・・そろそろどこに泊まるか考えなくちゃいけないのだろうな。野生の動物みたいに山や森で好きに夜を越せればいいのに、こんなときでも人間らしくいる努力をしなければならないんだから、参るよな。ときどき、そういうことがおっくうで、つらいんだよなぁ」と、どこか他人事にぼんやり思案しているという場面で目が覚めました。

 

夢のように行き当たりばったりではなくて、今回も一応、人間らしい旅にすることにしました。行先は正直、遠ければどこでもよかった気もしますが、一度も行ったことのない九州に初上陸してみたく、またそれなら前回行った函館に引き続き、異国情緒のある街に行ってみたくて長崎に。あれこれ見て回る元気があればそれもいいし、疲れていたら長崎の街でただのんびりするのもいいなと思って。

 

出発の前日は教室から帰った後、旅の直後にある教室のための準備をしました。うっかりすると寝てしまいそうになるのを自分で叱咤激励して、参考作品を描き、プリントも作り終えると、なんと日付が変わろうとしています!朦朧としつつも、慌てて旅の支度をし、それからやっと眠りに落ちました。(文字通り「落ち」ました)

翌朝5時に起きると、空気が異様に寒く震えが止まりません。なぜ今日に限ってこんなに冷えるのか!眠いし、疲れも抜けきらず、「このままもう3時間好きに眠りこめたらどんなにいいだろう」と本気で考えました。休みの日でも寝坊はしない方だし、眠いから旅をキャンセルするなんてばかげたこと、いつもなら思いつきもしないのに。もちろんうっかり二度寝しないうちに起きることを選びましたが。

 

まだ真っ暗で夜のような外に出て駅に向かうと、なんだかまるで現実味がなく、「本当に私は起きているんだろうか。まだ夢だったりしないよね」と心配になる一方、「これも日常から外れていく、旅の序章なのだ」と思って嬉しくなってきます。「そうそう、こうやって日常から逸れていかなくちゃ!」と。

羽田行きモノレールではいつもより高い視点でみる風景を楽しみ、そのあとは飛行機の窓から大地を見下ろします。冠雪の富士も美しい!疲れてふらふらだけれども、こうして飛行機で山地の上空を飛んでいると、あの平たい関東平野を離れて遠くまで来ていることを実感してわくわくしてきます。

事前に読み込むことができなかった旅行ガイドをいまごろ開き、どこに行こうかとあれこれ考えているうちに、あっという間に長崎に着いてしまいました。飛行機は楽ですが、ちょっと早すぎる気もします。

 

降り立った長崎は暖かく、冷え込んだ関東とは大違い。着こみすぎた私は場違いなほどでした。さっそくマフラーを解きます。

市内に着いてホテルに荷を預け、まず何しようと思ったとき、「海が近いなら、そうだ、海だ!」という気になり、海辺の公園へ。雰囲気のいい公園でくつろぎ、ベンチでパンをかじっていると、急におなかに響くほどの大きな音があたりを貫きました。サイレンでもないし、すわ何事かと思ったら、船の汽笛でした。汽笛とはこんなに大きな音だったのか・・・それもそうか、必要あってこの音量なのでしょう。地元の人には日常的な音らしく、だれも動じませんが、一人で驚いていた私はまったくもって異邦人なのだなと実感。「そうだ、私は異邦人で、いまアウェー中のアウェーにいるんだ」と考えて、また旅気分が盛り上がります。

 

その後は県立美術館へ。隈研吾氏の設計なのですが、これがなかなか・・・!ガラス張りの建物の外壁には、鉄骨に薄茶の石板を貼ったような長い板が並べられていて、それがブラインドのように程よく内部に光を通し、かつ外からの目隠しにもなるという絶妙な仕掛け。石板のザラリとした素材感もいいし、金属やガラスと違って自然にも溶け込んでいます。運河を建築に生かしているのも面白く、また外界と緩やかにつながって、開かれているというコンセプトにもぴったり。外の階段から自由に上がれる屋上庭園もあって楽しいし、内部も案内標識からエレベーターのボタンまでいちいち感心するほど、機能的で無駄のないデザイン。自動ドアにも『自動ドア』なんて表示はなく、そっけないくらいのシンプルさ。でも冷たすぎず、知的でクールでスタイリッシュな建築という印象。基本的には古い建物が好きな私ですが、現代建築もいいものはいいものなのだなぁと再確認。

常設展だけ見ましたが、古いキリスト教絵画などもなかなかの作品がありました。大学のころよく学んだ分野なので、楽しめました。コレクションにはゴヤの風刺画などもあるようでしたが、ちょうど展示されてはいなくて残念!でも天井も高く居心地の良い空間でゆっくり鑑賞ができたのはとてもよかったです。あくせくした自分を、静かでゆっくり流れる『美術館の時間』に合わせていく作業というのが、私は好きです。

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コメント: 2
  • #1

    ボッコちゃん (水曜日, 04 1月 2017 00:26)

    やっと旅に行く事が出来て何よりです。
    私も日本にある洋館が好きですが、近代建築もいいなと思うようになりました。特に美術館や図書館や劇場などに感じの良いものがあると気分がアップします。現代の建築家に関心が無かったのですがこれからは見る目がかわりそうです。こちらにも感じの良い図書館を見つけました。カフェテリアもありのんびり出来て良いのですが蔵書が少ないです。本は驚くほど高いので学生の教科書はコピーです。日本人のように本を沢山持っている人はあまりいません。引っ越しが楽だわね。

  • #2

    凹太 (月曜日, 09 1月 2017 01:16)

    いい旅でしたね。知らない所に行くのはいつでもワクワクしますよね。長崎は仕事で行ったことがありますが坂の多い街という印象でした。そこで友達と会いましたが、12月なのに一人半袖を着ていたことを思い出しました。彼に案内され食事をしましたが、とても美味しかったことは覚えているものの何を食べたのか、しゃれた店の事もどうしても思い出せません。同じく変わり者同士でしたが、そういえば二人とも今は海外で生活しています。