祝 100冊

”本物のパン”。頂きもののアイリッシュバター、自家製柚子ジャムも。
”本物のパン”。頂きもののアイリッシュバター、自家製柚子ジャムも。

 

ブログを書きそびれている間に、気がつけば早、師走も下旬。

今年は暖冬らしいですが、今月初めから水仙が咲きだしたのには驚かされました。

 

  

さて1月のブログに書いたかと思いますが、今年は本を100冊読むのが目標でした。

しかし思ったより着々と読み進めることができ、数えてみると、昨日読み終わった本でなんと110冊目でした!

 

 

 

何年か前からノートに読書の記録をつけています。読んだ本のタイトル、著者名、読了日、それに感想を数行を書き、☆印による評価も加えます。

 

ちなみに☆印は5段階で、以下のように分けています。

☆ →読むほどのものじゃなかった!

☆☆ →いまいち楽しめず、本の中に入りこめなかった。

☆☆☆ →まずまず楽しめた。

☆☆☆☆ →面白い。結構気に入った。

☆☆☆☆☆ →とっても面白かった。本の神様ありがとう!!

 

(五つ星の”本の神様”(私が勝手に信仰している)に感謝するレベルの本にはなかなか出会えませんが、 ロマンスの神様よりは私に微笑んでくれている気がします。)

 

読んでいる本はほとんど海外のミステリ、ときどき幻想文学といったところですが、現代日本の小説も気に入った作家を追いかけて何冊か立て続けに読んだりと、興味の向くまま雑読しています。

記録を振り返ってみて、今年はここ数年と違って、詩集・歌集・古典文学・随筆などはほとんど読まなかったことに気がつきました。数えてみると110冊の中で小説でなかったものは、たった4冊。

 

最近読んだ中で面白かったのは、短編の名手ヘレン・マクロイの短編集『歌うダイヤモンド』。この作家はミステリからSF、不条理小説までジャンルの壁を越えて書き、1904年生まれとは思わせぬ斬新で完成度の高い短編をいくつも残しています。星新一を少々感情的にして女性目線に据え直したような印象でしょうか。

 

中でも気に入ったのは、『Q通り十番地』という一編。

自然物由来の商品の生産・消費が禁じられて久しく、誰もが疑問も抱かずに、量産されたまずい合成物(何でできているかも不明)だけを食べている世界で、小麦から作った”本物のパン”(もちろん違法)を求めて、違法な食べ物を提供する怪しげな店にこそこそと出かけていく主婦エラが主人公。

 

エラは夫が酔いつぶれたすきに夜の街へ出て、人目をはばかりながら店にたどり着きます。この社会では違法な食べ物を食べるのは非常に汚らわしい行為で、まさに悪徳の極み!店の見張りの男にまで軽蔑の目を向けられながら合言葉を言って通してもらい、なんとかカウンターに腰かけますが、なかなか注文が言えません。しかしそのときパンの香ばしい香りがただよってきて……欲求に負けたエラは恥も外聞もかなぐり捨て、ついに注文を口にします。

「本物のパンが一切れ欲しいの」

 

”本物のパン”という言い方がとてもおかしくて、読んでいてつい吹き出しそうになりました。

エラは”本物のパン”に”本物のバター”と”本物のジャム”をつけてもらい、何か月もかけて貯めた155ドルを払って、一時の幸せを手に入れます。その描写がまた美味しそう。

 

”目の前に現れたのは本物のパンだった。オーブンで焼きたての、かじるとさくさくと香ばしく、黄金色に実った小麦と、太陽の光と恵みの雨の味がするやつだ。パンの表面にはバターが塗ってある。本物の、金色に溶けた、クローバーの香りがするバター。それにジャムは、本物の黒すぐりと砂糖で作られた、甘酸っぱい味がする。”

 

このあとストーリーは隣に座った男が2000ドルもするステーキを注文したあたりから奇妙な展開になっていきます。その不条理に震撼しつつも、「でも、その美味しいパンをほおばった時の何にも代えがたい幸せ、わかるわ!」と彼女に共感してしまいました。こんな社会に生まれていたら、きっと私も”本物の紅茶”と”本物のパン”を熱望して、彼女と同じ轍(てつ)を踏んでいたことでしょう。

 

以来、朝食にパンを食べようとするとき、『本物のパン』『本物のバター』『本物のジャム』という言葉が思い浮かんで笑ってしまいます。

あの話のように美味しいパンが禁じられていなくて本当によかったとつくづく思いながら、自家製の『本物のパン』をありがたく噛み締めるのでした。 

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コメント: 3
  • #1

    ボッコちゃん (土曜日, 26 12月 2015 19:31)

    ミステリー小説は中断すると後が気になって気になって…。仕事が出来ません。危険な分野です。深入りしないようにしています。夜更かしして調子が狂うのもこの分野の本だし。家で作るパンやお菓子はプロのようにはいかないけど部屋じゅうに焼いている香りが漂うのは豊かな気持ちにさせられます。この香りを共有するために子どもの帰りに合わせて作っていたな。今は昔。

  • #2

    凹太 (木曜日, 31 12月 2015 07:47)

    何でも片っ端から本を読んだ時代がありました。図書館から借りた本だけで200冊、気違いだったかもしれません。読んでいるとその世界に入り込んでしまい、日常に戻った時ぼーっとしてしまいました。老眼になり専門書以外はあまり読まなくなりましたというか読めなくなりました。目が疲れます。さみしいものです。本物のパン、バターはここでは夢です。ジャムは良いものが売っています。が、牛のエサは牧草、しかも手入れをしていない草地なので牛乳は美味しくなければ、チーズ、バターも今一つです。パンは強力粉を使っていないのかこれも一応「本物」ですがもどきの世界です。クロワッサン風のパンが1つ15円ぐらいと安いのが取り柄です。贅沢をいわず、「本当においしい」バナナ、マンゴーなどを楽しんでいます。

  • #3

    nana (水曜日, 06 1月 2016 01:22)

    ボッコちゃん:確かにミステリにはいろんなものをそっちのけにさせる力がありますよね…。私も最近は鍋を木べらでかき混ぜながら、続きを読みふけったりしています。
    パンやお菓子を焼いているときの香りってなんであんなに幸せなんでしょうね。人間の生活が複雑になりすぎて、「幸せ」が何なのかわからなくなることがあったら、ぜひあの香りを思い出させたいものです。しかもそれを誰かが自分のために焼いてくれているという幸せもありますもの!
    凹太さん:それが気違いなら、「わあ!いいなあ、そんなに読んだの!」と憧れた私は何なのでしょうね?(笑) 凹太さんが読んだら気に入りそうな小説に心当たりがあるので、読めないというのはちょっと惜しまれますが…。
    本物のパンとバターは次の帰国の時のお楽しみですね!それまで私の分も「本当においしい」トロピカルフルーツを楽しんでください。