函館への旅

函館に行って来ました。

旅行社のフリープランをうまく使って安上がりの旅にするとなると、飛行機は朝早くか夜の便ばかり。「若いからできる旅だねぇ」と人に言われたことがありますが、うーんどうだろう……もっと年をとってもそんな旅を喜んでしていそうな気がするのですが。


4:30起床、始発で羽田空港へ向かい、10時頃には函館駅に着きました。飛行機から見てもそう思いましたが、北海道はまさに「大地」という言葉がぴったり。道路も広場もとにかく広々としていて、建物も高層にする必要が無いせいか空が大きく、風は大地を吹き渡っています。冬の寒風はきつそうですが、今の時期はまだそれほどでもなく、ほのかに海の匂いがする風に「港町に来ているのね!」と心が躍ります。


ホテルに荷物を預けて身軽になり、さっそく街を歩き出します。市電(路面電車)が便利だとガイドブックにはありましたが、地図の縮尺から計算するに、十分徒歩でも歩き回れそうです。


街を歩いていて目に付くのは建物に這い登るツタ。ちょうど紅葉が始まっていて、まだ緑のものから赤や黄色になったものまで、無数のグラデーションをまとった葉がとても美しい。

明治から昭和に建てられた建物に絡んだツタは、レンガのえんじ色や黒い窓枠に照葉が映えているし、コンクリートが打ちっぱなしの壁でも、無機質なコンクリートの質感に鮮やかなツタが対比をなし、葉の形もくっきりと浮かび、まるで絵のように見えます。


横目で見惚れながら街を歩いていたら、「ツタは自分がこんなに美しいということを知っているのだろうか」という疑問が浮かびました。

「知らないでこんな美しいのだから自然とはすばらしいのだ、と言う人もあるだろう」とも思いつつ、ものに人格を与えて考えがちの私は、「でもこんなに美しいのに、それを自覚していないなんて事があるだろうか」という気持ちになります。

ふと恩田陸の小説で、「僕は無垢な美少女というのも信じない」と少年が言うくだりがあったな、と思い出し、「ああ、それもそうかも。じゃあこの街のツタたちも、己の美しさを自覚したうえで、建物を覆っていたりして」と思ったところでコンクリートの壁に美しい絵を描いているツタに出会い、思わず足を止めました。これは確信犯(!)に見えたからです。


(帰宅してから出典を調べました。 『ごくまれに自分の美しさに気付いてない子もいるけど、それだってほとんどは演技だ』『自分の美しさに傷つくデリカシーのない女の子って、僕にとってはきれいな女の子じゃない』←『麦の海に沈む果実』恩田陸)


お昼には、いくらやカニが載った丼を食べました。さすがは北海道というお味です!

そのあとは、オルゴールのお店をのぞいたり、赤レンガの倉庫群(今は中がお店になっている)や海を眺めながらベンチでぼーっとしたりしていると、だんだん非日常にいる実感がわいてきます。

このままのんびりしてもいいけれど、いや、今夜は夜景を見に行ってみよう!と、また歩き出します。

観光案内所に函館山のロープウェイが私の滞在中ずっと点検期間で運休だと出ていたので、交通機関はバスしかありません。ですが案内所で函館山には登山道がいくつもあるという情報も入手!ハイキング程度のコースもあるようでした。時間も余っているし、ちょうどいい冒険です。


登山口に着くと4時前。日没は5:20頃だそうなのでまだ余裕がありますが、山道は暗くなるのが早いのでのんびりしてはいられません。軽くストレッチをして飲み水を買い、ショルダーバッグの肩ひもを短くして登り始めます。

夏に来るともっといろいろな花が楽しめるようですが、もう秋なので野菊やアザミの花か、ノブドウの実くらいしかありません。一箇所でだけ、トリカブトの青紫色の花が見られましたが、あとは木ばかり。

ところどころに置いてある石仏の前ではちょっとばかりあいさつして、あとはもくもくと歩きます。見晴らしが良くなり、海が見えるところまで来て向こうを眺めたら、遠くの山の方には雲間から光が差し込んでいました。(天国への階段、あるいはジェイコブス・ラダーとも言いますね)

せっせと歩いたご褒美のような光景ですが、ちょっと遠い。でもあれは自分があの光の中にいる時にはそうと気がつかないものでもあります。幸せと言うのもそんなものかな、などと考えながらあと少しを登り、ふもとから50分ほどで頂上に着きました。


展望台に上るとまだ日没まで時間があるのに人が集まってきていました。この中で登山道を来た人は何人くらいなのか…。韓国語や中国語も飛び交っています。

風が強くて寒かったですが、人が多くなるにつれ暖かくなってきました。ペンギンの集団のようです。


日没まえから明かりが灯り始め、もう「きれいね~」と言い合って写真を撮るおばさまたちですが、ガイドブックによると夜景は日没から20~30分後くらいがいちばんなのだとか。風に首をすくめながらまだ待ちます。

だんだんと空が暗くなるにつれ、明かりが綺麗に見えるようになってきました。家々にも明かりが灯っていきます。函館の夜景は日本3大夜景だとか、世界3大夜景などと言われているようですが、美しいのは規模よりも、明かりの色がオレンジ系の暖かい色でほぼ統一されているからかもしれません。

写真を撮り、長い間夜景を眺め、それから震えながらバスの列に並んで街に帰ってきました。そのあと入ったお店で熱い緑茶を飲みましたが、一杯のお茶が五臓六腑に沁み渡っていくようでした。

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コメント: 3
  • #1

    凹太 (月曜日, 26 10月 2015 06:59)

    函館山の夜景は確かに綺麗ですよね。自分もまた見たいと思ったほどです。上は風が強く、さぞ寒かったことでしょう。 ツタは最初に紅葉する植物で、鮮やかな赤が目を引きます。その這い方も面白く、つい写真を撮りたくなります。 それにしても、ここは海まで遠い山の中なので、海の幸はほとんど手に入りません。ますます函館に行きたくなりました。

  • #2

    ボッコちゃん (月曜日, 26 10月 2015 08:56)

    旅はいいね!いろいろな国に少しづつ住んでみるというのをやりたかったのですが予定が狂って一つの所に留まっています。でもまだ新しい発見があるし、文化の違いを面白いと感じる事が日々あるので旅人気分でいられます。以前函館山には観光バスで行きました。バスは頂上に長くいることは出来ない規則らしく時間を気にしながら見たように思います。綺麗だったけど寒かったです。

  • #3

    nana (火曜日, 10 11月 2015 11:25)

    凹太さん:海の幸はそちらに届けたくなりました。きっと喜ぶのにな~と思いながら、かわりに頂いておきました(笑)
    北海道は函館に初めて来ただけで他を知りませんが、土地のスケールが大きくて、あっけらかんとしていて…もっと他にも行ってみたくなりました。次は内陸かな。
    ボッコちゃん:いろんな国に少しずつ住むなんて素敵ね!時々私が遊びに来て合流したりなんてできたらいいのに。私も風景の綺麗な所に少し住んで、風景画をたくさん描いたりしてみたいです。