函館への旅 ~大沼編~

翌朝は早起きして、朝市へ。今朝とれたばかりのイカを使った、イカ刺し定食を頼みました。ガイドブックには必ず載っている有名店ですが、ご夫婦だけでやっている本当にちいさなお店です。


定食だから、イカそうめんとご飯とお味噌汁に小鉢ひとつくらいかと思っていたら、それがとんでもありませんでした。お盆には、空いた余白を埋め尽くさんばかりに並べられた豆皿が!イカの塩辛、イカの煮物、とろろ、めかぶ、タコのキムチ、昆布の佃煮、イカのわたを使ったペースト、じゃこの佃煮……なんと十種類もあります。しかもどれもおいしい!

ちょっとシャイそうな店主は無愛想な様子ながら、ときどきカウンター越しに「それは汁も美味しいから、汁ごとごはんにかけたらいい。」などと声をかけてくれます。お行儀悪いかもしれないけど、たしかにそうすると美味しい!珍味がたくさんあって、ごはんはもっと必要なくらいだけど、おかわりなんてとても無理。もうお腹がいっぱいだけど、残したくないし、口に合わなかったのかと思わせそうで、そんなことはできません。


おそるおそる食べすすめていると、ほかのお客さんが店のご主人に挨拶していくのが聞こえます。「あ、あの、すっごくおいしかったです!!絶対また来ますから、お元気でお店を続けてください!」「ごちそうさまでした。どれもおいしくって、感動しました!」

なんだかドラマみたいに聞こえるけれど、たしかにこの美味しさならその気持ちもわかります。こんな小さいお店なのにここが愛されて有名なのは頷けます。

やっとやっと食べきれそうでほっとした時、店のご主人がカウンターから身を乗り出し、「これ、いま作ったばっか。食べて」と手を伸ばしてきました。驚いていると、お茶碗の中に何かを転がして、手が戻って行きます。見ると、さんまの煮つけが一切れ。


さ、さらに食べなくてはならないものが増えた……!でもまったく煮崩れせずきちんと形を保ったサンマにプロの腕を感じます。これは食べないわけにはいきません。そっと食べてみると、骨まで軟らかく、こんなに味もしみているのになぜ煮崩れしていないのか。魔法のよう。

『空腹は最高のスパイス』といいますが、お腹いっぱいの時でさえ最高においしいサンマでした。


ご主人に丁寧にごちそうさまを言い、どれも美味しかったけど特にイカの塩辛が美味しかった旨を付け加えると「いや、どれも美味しかったでしょう」と返されました。自信と誇りを持って料理を作り、人に出しているという感じがとてもいいなあと思いました。


ここでおもわぬ時間を食ってしまったので、あわてて駅へ。大沼国定公園へ行く電車は1時間に1本なのです。

ホームに着くと2両の電車がありました。駅員さんに奥の電車に乗るよう言われていたのでそちらに向かうと、手前の電車のドアをがしゃがしゃと揺らしているおばさま方が。

「向こうの車両しか開いてないのね」「きっとあっちが満員になったらこっちも開けるのよ」「(ケチと言わんばかりの顔で)最初から開ければいいのに。でも開いたらこっちに移りましょうよ!」などという会話が聞こえてきます。電車は2両停まっているけど、その間は連結していないということを見逃しているご様子。これは1両の電車が2台停まっているだけなのですが。教えるのもおせっかいなので黙っていましたが、なんだかおかしくて口元が緩みます。


ゆっくりしたペースでゴトゴトと45分ほど行き、大沼公園に到着。観光案内所で地図をもらい、さっそくあたりを散策。残念ながら期待していたほど紅葉が進んではいませんでしたが、それでも水辺の景色はきれいです。蚊もいない代わりに、雪虫がたくさん飛んでいてそれだけは少々厄介でした。

朝のひんやりと湿った林の中を歩き、写真を撮りながらいくつかのコースを巡っているとどんどん時間が過ぎていきます。途中で名物のお団子を買い、岩に座っていただきました。団子を串に刺していないのは、決して手抜きなどではなく、団子を湖の浮島に見立てているからだとか。


だいたいのコースは見て回ったので、午後はレンタサイクルで湖を一周してみることにしました。どのレンタサイクル屋さんでも大した違いはないだろうと思って適当に借りたら、これが大はずれ!

ハンドルには錆が浮いているし、かごも破れていて、ギアさえついていない古い自転車でした。まさかいまどき、こんな自転車を貸しているところがあるなんて!ほかのお店はもっと普通の自転車だったので、大失敗しました。

えーい、ままよ!と漕ぎ出し、14キロのサイクリングへ。風景がきれいな所に休憩所が設けられているので、ひと休みして写真を撮ることもできます。色んな角度から湖を見られるのが良かったです。途中坂道がきついところもありましたが、90分ほどかけて一周。

自転車を返す前にさらに足を延ばして、近くの牧場へ。しぼりたての牛乳を飲みに行ってみました。ジャージー種の牛乳もブレンドされているらしくとても濃厚で、びんを開けるとクリームが分離しているほどでした。旅先では生野菜や果物が食べたくなるので、ホテルで食べようと、よく熟れたプルーンも1袋買いました。


美味しいものをたくさん食べ、絵の参考になる風景もたくさん見られて、散策にサイクリングと充実した一日でした。明日の筋肉痛を心配しながら函館に戻る電車に乗り込みました。

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コメント: 4
  • #1

    凹太 (木曜日, 29 10月 2015 08:14)

    大沼公園は自転車旅行で行ったことがあります。なにか箱庭的な印象がありました。2回目は出張の途中の昼休みにちょっと寄り道しました。空き地に忘れな草が一面青い花をつけていたのをよく覚えています。3回目は5月中旬でしたが、季節外れの大雪となり景色は見られませんでした。北の大地の厳しさを感じました。  旅先で飲む地元の牛乳は美味しいです。機会があったら地元の果物とともに試してください。旅の楽しみが増えるでしょう。

  • #2

    ボッコちゃん (土曜日, 07 11月 2015 22:38)

    大沼公園の思い出・・・・ただただ寒かった。大雪になりゆっくり見ることは出来ませんでした。(寒さに弱いので)中国からいらした団体旅行の人達は雪が嬉しいらしくはしゃいでいたのを横目で見ながら退散した残念な思い出。天候や季節によってその場の印象が左右されますね。次回は気候の良い時に行きたいです。

  • #3

    nana (火曜日, 10 11月 2015 11:29)

    ボッコちゃん:中国人や韓国人はどこにもたくさんいましたよ。大沼でも市内でもずいぶんすれ違いました。雪は降っていなかったけど、雪虫には困りました。養蜂用の顔を覆うネットがほしくなったくらいです。
    大沼では水鏡の美しい光景に何度か出会いました。そのうちに絵に描くつもりよ。たぶん大作(100号くらい)にしますので、お楽しみに!

  • #4

    nana (火曜日, 10 11月 2015 11:32)

    凹太さん:一面の勿忘草。それは美しかろうと思います。見てみたい!
    果物はプルーンを買いました。木で熟れたものなので、こちらで市販されているすっぱいプルーンとは全然違いました。りんごもどこかで買えば良かったです。