ハワイ ~カウアイ島~

ホノルルからカウアイ島へ空路で40分ほど。あっという間に着きます。

島に着き、レンタカーを借りました。ハワイでは日本の免許で運転ができますが、右側通行で、赤信号でも右折ができるなど交通ルールも多少違うので、慣れるまでは助手席にいてもどきどき。

 

カーナビはまだまだこちでは標準装備ではないようで、私は助手席で道路地図を広げて案内役に徹します。日本では標識や目印となる看板などがたくさんあって、情報があふれんばかりですが、この島では大きな道路が合流するところでも20メートルぐらい前に小さな看板が一つあるきりだったりします。

当然、「あっ!ごめん、ここだった!!今のとこ、曲がるんだったみたい!」というようなことが多くなり、行こうと思っていたのに諦めたところもありました。

 

カウアイ島は『ガーデンアイランド』と言われるほど、緑がいっぱい。そして、小さいながらも見どころの多い島でした。

空港から海岸沿いに北上するとリゾートホテルの多い、島の中心地があり、それを通り過ぎてさらに海沿いに走っていくと、いつしか道は山の中へ。一車線しかない橋もあり、ゆずりあって通らねばなりません。そんな橋をいくつも超え、細い道を行くと、いつの間にかまた海が近くなっています。人も少なく、静かできれいなビーチが広がっていました。日差しがまぶしく、サングラスなしではきついほどですが、サンゴ礁の海特有の青色が美しく、ついサングラスをはずして見とれてしまいました。

木陰に座って、いつまでも寄せては返す波を眺めていると、いろんなことがどうでもよくなってきます。つまらない雑事が遠ざかり、いま「ここにある」と言えるのは海の色と波の音だけかのようです。何者でもないもの、たとえるなら獣や木にでもなったように、ものを考えることをやめて、ただぼうっとして海を見ていました。

道はこの少し先のビーチまでで途切れていますが、さらに先には絶壁が続きます。紺碧の海に切り立つ絶壁が美しいようですが、船かヘリコプターでないと見られないそうです。

 

翌朝、島の観光名所のひとつ『シダの洞窟』にも行きました。原住民たちが神聖な場所としていた山にあり、ワイメア川下流の船着場から観光用の船で出発。この洞窟はその名の通りシダがたくさん垂れ下がった洞窟なのですが、10年ほど前の異常な大雨でシダがずいぶん落ちてしまったらしく、残念ながら今はそれほどの迫力はありません。でもゆったりとした川の流れを船でいくのも楽しいものでした。アオイ科の大きな木が川に沿って生え、赤と黄色の花をたくさんつけています。はじめ黄色い花が咲き、赤くなっていくのだとか。

船の中ではウクレレや歌、フラダンスなどが披露され、ちょっとだけフラダンスの基本を教えてくれました。と言っても、いくつかの動きを一緒に踊ってみるというだけなのですが、私は初めてフラダンスの身振り手振りのひとつひとつが手話のように意味を持っており、ストーリーになっていることを知りました。

 

島の南側にはいくつか町があり、それを過ぎて島の西側に向かうと、高地になっていきます。山道を車で上っていくと、気温もぐんと下がってきました。低地では熱帯植物ばかりだったのに、この辺りまで来るとまた植生も変わってくるようです。野生のブラックベリーも実っています。

展望台から霧の間に臨むのは、深い谷。長い年月をかけて浸食された大地が渓谷と化した『ワイメア・キャニオン』が広がり、壮大な風景が展望できます。スケールの大きな風景に、またしても呆然。はるか底の方を白い鳥が飛び交うのを見て、その鳥たちになって俯瞰しているつもりになって、またしばし人であることを忘れます。

それから人に戻ってまた眺めます。白い鳥たちは何羽もいるけれど、荒涼とした景色の中で寂しげに見えました。思わず出てきたのが、次の歌。


白鳥はかなしからずや空の青うみのあをにも染まずただよふ  若山牧水


岩だらけで殺伐としたほぼ茶色一色の景色ですから、大分違うはずなのですが、景色になじまずくっきりと浮き上がって見える白い翼が寂しげで、『かなしからずや』が妙に哀切に響きました。

とはいえ、白い鳥たちはあんなに小さく見えるけれど、本当は大型の鳥であるはず。あの鳥たちは空高く飛んでいるのに、私はさらにずっと高いところからそれを見下ろしているのだと考えた時、


朧夜の底をいくなり雁の声  諸九尼


という俳句を思い出しました。

雁が上空を鳴きながら渡っていく声が聞こえるという状況を、朧夜の『底』と言うことで、むしろ恐ろしいほどである天空の無限の広さを意識させる句です。

作者は庄屋の妻でありながら俳諧師と駆け落ちした人で、そんなことを知るとまた違う味わいも出てきそうな歌です。ちなみに『朧夜』なので、これは帰る雁ですね。


他にも鳥はいますが、なんといっても目に付くのはニワトリです。入植者が連れてきたのが野生化したというニワトリは島のどこにもたくさんいますが、こんなところにもいるなんて。高地までよく生息域を広げてきたものだと感心してしまいます。

海から高地(約1000メートル)まであり、美しい海もあれば巨大な渓谷もあり、神話や伝説のちもあって……こんな小さな島なのに変化に富んだ景色が見られて、面白いドライブでした。