鞍馬山

昨日の4万歩がどう響くかと思ったけれど、翌朝、足には何の不調もなし。ううむ、我ながら呆れた健脚ぶり。

あいにくの小雨ですが、これから晴れるとのこと。鞍馬~貴船へ行くことに。今回は鞍馬山から山道をたどって貴船に下りてきて、貴船神社にお参り、というコースにしました。

 

京都駅からちょっと歩いて地下鉄に乗り、出町柳へ。出町柳で乗り換えて、叡山電鉄で鞍馬山を目指します。叡山電鉄は一乗寺にある恵文社という本屋さんに行くときにも使っていますが、2両編成のローカルな電車です。初めのうちは街の中をごとごとと路面電車みたく走りますが、だんだんと山に差し掛かるとロープウェイのように山を登っていきます。車内の気温が下がり、木々が窓に迫ってくると、冒険気分が高まります。

 

モミジのトンネルに差し掛かると、電車がスピードを緩めてくれました。紅葉の具合は、桜で言うなら4分咲くらいですが、それでも複雑なグラデーションが出来ていて、綺麗!車内で歓声が上がります。

でももう十日くらいしたら真っ赤に染まってさぞ美しかろう、と思うと少し悔しい。兼好法師が「花は盛りに、月は望月ばかりを愛でるものではない。その時々の美しさがあるのだ」というようなことを言っていたのを思い出し、残念に思う気持ちをなだめます。

 

鞍馬山に到着。近くの売店では名物の栃餅などとともに、天狗グッズが。天狗やカラス天狗の張子面もあって気になりますが、これから歩くことも考えて今回は我慢!

 

鞍馬山はパワースポットとしても有名らしく、どうやら京都のパワースポットめぐりの旅をしているらしい、若い女性の二人組もいて、天狗が下ってきたという伝説の残る場所や、陣を描くように石が敷かれたところにくると、空に向かって手を上げて陣の上に立ち、目を閉じて何やら念じたりしています。どうやら空から降ってくるパワーを自分に注ぎ込もうとしている様子。

そういうことに詳しい方の女性が体育系のコーチさながらに、もう一人に姿勢などを厳しく注意したりなどしていて、本人たちは真剣ですが、正直言ってちょっと滑稽な光景でした。

近くにいたおじさんが呆れたように「パワースポットとかいうけどさ、もらおうとして必死にもらうものじゃないだろ。そこを歩いているだけで自然といただいてる、そんなものだろ?」と言い、奥さんも「ねぇー」と同意しているのが聞こえてきて、思わず口元がゆるみました。全く同感です。

しかもそういう”いわくありげ”な場所の傍らにはほとんど必ず、鞍馬山の方が書いた「妙なものを過度に信仰し、身を滅ぼさぬよう…」というような注意書きの看板が立っているのだからおかしい!

 

でも雨が降り、霧がかかる中、山道を歩き、祠や社に出るとお参りをしていると、こんなところなら天狗も出てきそうな気がしてきます。大杉社のそばで、来た道はわかるのに続きの道が見つからなくなったときは、天狗にからかわれたかと思いました。(すぐに見つかりましたが。)でも、本当に会えるものなら会ってみたいものです。

 

貴船までは足元が悪いせいもあってか、長く感じました。途中ですれ違う人も、浮き出た木の根とぬかるんだ地面にうんざりしている様子。天気が良ければまた印象も違うのでしょうが。

やっと貴船神社に着き、水に浸すと字が浮き上がるおみくじ(辻占)を引いたら、なんと末吉!「何もかもツイてなくて上手くいかないが、そういう時期なのだと思って、出来る事をやりながら耐えよ」というようなことが書いてあります。もちろん、すぐ結んできましたが、なんだか辻占なんて引いたせいで却って厄がついてしまったような気がしました。

 

そしてまた叡山電鉄に乗って、貴船を後にします。ただ山を歩き回って、神社で普通にお参りしただけですが、身も心も山の空気に染まった気分。私にはこれで十分!

 

出町柳まで戻り、今度は京都大学の方へ歩きます。目指すはお気に入りのカフェ、進々堂!

…のはずが、その手前の数件の古本屋が素通りできないのが本好きの性でしょうか。山室静さんの本を一冊と、鏡というものが歴史的・民俗学的に、どう扱われてきたかを論じた本を一冊購入。さすが京大のそば、アカデミックな本がいっぱい!

それからようやく進々堂へ。この日はなぜか5時に閉店するらしく、30分くらいしかいられないことがわかり残念でしたが、せいぜい満喫しようと思いました。(まさかこれも末吉のせいとか?)

 

客は私を入れて21人、なかなかの盛況ぶり。ケーキもスコーンももう売り切れだというので、コーヒーだけを注文して、あたりを眺め、ざわめきを聞きながら飲みます。

薄暗くて雰囲気のいい店内。英語を話す隣の客。

まだ慣れなそうだけど、丁寧な物腰をした、ギャルソンエプロンが似合う店員さん。

向こうのテーブルの青年は文学部の学生だろうか。和歌集らしい大判の縦書きの本を読んでいるのが気になります。何を読んでいるのか聞きたくなってしまう。

コーヒーは相変わらず美味しい。後味は濃いのに、苦いわけではなくて、豊かなコクと香りがのどの奥に広がるような感じ。

ああ、やっぱり適当なところでお茶にしなくてよかった。ここまで歩いてきた甲斐があったな…。 

 

そんなことを考えていると、30分はあっという間。前に読んだ小説で、主人公の友人が自慢の腕時計で「僕のタグホイヤーによれば…」と時間を確認する場面があったのを思い出しながら、私も自慢の時計をポケットから引き出します。

さて、私の懐中時計によれば…もうすぐ夕方5時、閉店です。後ろ髪引かれる思いで、店を後にしました。こんな店が近所にあったら、私は間違いなく常連になっているはず。