道祖神の招き

個展が無事に終わりました。ご来場くださった方、応援してくださった方、ありがとうございました!

 

この数か月ずっと、旅にも出られず悶々としていました。しかし秋が深まるにつれ、ますます旅に出たくなり、松尾芭蕉『奥の細道』の序文の「道祖神の招きにあいて取るもの手につかず…」の下りが頭の中で何度も蘇ってくる始末。これは限界だと思い、「個展が終わったら、どんなに忙しくても、一度どこかへ行こう」と決めたのです。

そしてようやく個展が終了したので、今度描くことになっている屏風の取材もかねて、京都へ行ってきました!

 

紅葉のシーズンで、京都市内では高級旅館しか空きがなく、大阪に宿を取ることに。東京から京都までも、新幹線ではなく飛行機での旅となりました。

羽田から一時間ほどで伊丹空港へ着いてしまい、拍子抜け。駅弁を買って、静岡の茶畑や富士山、ミカン畑などの車窓を楽しみつつ行く新幹線の旅とは、ずいぶん趣が違います。なんだかまだ大阪に着いてしまったことが信じられず、ぼおっとしたまま、電車で京都へ向かいます。

 

京都に着き、まずは駅を出ます。

昼を回っているから、そんなに時間のかかるところへは行けないけれど、数時間はあります。「さあ、これからどこへ行こう?」と思ったとき、今の私にはそう考える自由がある、と気づいてにわかに嬉しくなりました。

 

おお、いま私はとても自由だ!この町のどこに行って何をしてもいい! 

お気に入りの書店・恵文社に行くか。詩仙堂にも行ってみようか。

それとも、進々堂に行ってあのコーヒーを飲んで、有意義な時間のつぶし方をしてもいい。

あの古本屋でゆっくり本を探すか。

出町ふたばで豆大福を買うか。久しく食べてない。

いや、下賀茂神社のそばの店でみたらし団子という手も。

しかし、哲学の道から南禅寺に下って、夕暮れの水路閣を見に行くのもわるくない…

 

どこにでも行けるのに、どこへ行こうとも決めかねたまま、とりあえず歩き出しました。そのうち、「今はただ歩きたい」という気分になって、市街地を抜けて鴨川のほとりへ。北へ向かって川原を歩きます。綺麗に紅葉したモミジを期待していましたが、残念ながらまだ早かったようで、モミジよりもサクラの紅葉が見ごろのようです。

 

いくつもの橋をくぐって、途中で街に上がってお弁当を買って、土手に降りて川を眺めて食べ、また歩きだし、飛び石があれば飛んで川を渡ってみたりしながら、ひたすら川上へ。

2時間ほど経ったでしょうか。川が二つに分かれているところまで来ました。ここまで来て下鴨神社に寄らない手はありません。岸に上がり、「糺(ただす)の森」を散策します。

糺の森は、原生林と清らかな水流、そして数多くの社があることで知られる、下鴨神社の鎮守の森です。広葉樹の落葉がはらはらと落ちてくる森を通って、いくつかの社にお参りしました。

 

下鴨神社にはもう数回来ているけど、上賀茂神社にはまだ行ったことがなかったな、と思いだし、次の行き先が決まりました。

橋をもう4本ほど超え、やっと上賀茂神社へ。下鴨神社とは違って、大きな森もなく、広々と開けていました。なんだか、京都より奈良の神社に近い感じがしました。古くからの祭祀を執り行うための、広くてがらんとした土地というか…。でも私には、糺の森の神聖さや、中世に入り込んだような感覚の方がしっくりくる気がしました。

 

秋の夕暮は早い、もう帰らねば。さて、どうやって帰ろうか。バスもあるし、地下鉄の駅に出てもいい…なのに、まだ歩きたい気分。「心の中に犬でも飼っているかのようだな」と思いながら、「よし、今日はとことん散歩に付き合おう」と決めて、また歩き出しました。

夕暮れの川原を、早くも登ってきた月を左に見ながらと歩き、三条あたりで市街に出て、烏丸通を南下して駅へ。

大阪のホテルに着いて「我ながらよく歩いたなー」と万歩計を見ると、なんと40346歩!この万歩計は電車の揺れはほとんど拾わないので、やはりこれは私の今日歩いた分であるはず。

よ、4万歩!? ……健脚に、乾杯。