街歩き

夜になりかけの井の頭公園
夜になりかけの井の頭公園

このところ忙しいけど、誕生日には好きなように過ごそうと決めていました。そこで、気になっていた展示を見に、世田谷文学館へ行ってきました。宮沢賢治の童話はいろんな人が絵本にしていますが、その原画を数点ずつ紹介する展示があると新聞で知り、行こう行こうと思っていたのです。

 

家からは行きにくい、山手線の向こう側。芦花公園駅にも初めて降りました。世田谷文学館はこじんまりしているけど、ガラスを多用した近代的な建物でした。でもどこか一昔前のSF染みた、レトロな雰囲気があるのはどうして。半端な紫のカーペットのせい?

 

宮沢賢治は今年没後80年で、いろんな映像作家がアニメーションやショートフィルムにしたのがテレビで放映されたりと、さまざまな形で紹介され、再評価されています。賢治好きには嬉しい、『賢治イヤー』なのです。

でも宮沢賢治のファン(マニアではないけど)を自認する私も、まだまだ知らないことが沢山あります。つい最近読んだミステリにたまたま宮沢賢治の話が出てきて、彼が作中の地名や人物をエスペラント語風につけていたことを知りました。架空の名前なのに妙に日本語的でひっかかると思っていたのは、実際の名前をもじってエスペラント風にしていたせいだとわかり、納得。

また今回も、よく彼の肖像として使われている、長いコートを着てうつむき加減に歩いている写真(孤独そうな雰囲気)が、実はベートーベンの肖像を真似してポーズを取ったものだと知って驚きました。

展示されている絵本の原画には、スケールを感じさせる絵もあれば、絵にしたことで俗っぽくなったり、スケールが小さくなってしまったような絵もありました。抽象的になりすぎては本質を損ないかねないし、しかし読者は幻想を見やすく表したものを見たがっているし……写実に収まらない幻想的な世界だからこその、描き手の難しさが伝わってきます。

でもこういう展示は、同じ文学作品をどう捉えてどう描くかを、いろいろと比べることができて面白かったです。

また、絵本作家にも2種類の人種がいることも感じました。「イラストレーター」と「画家」。どちらにもそれぞれの魅力があるけれど、私が惹かれるのは画家タイプの絵でした。いせひでこさんとか。

企画展、常設展をみて、館内のカフェでひとやすみ。岩手産の米粉を使ったロールケーキとお茶のセットがあったので頼んだのですが、そのケーキの名前は『注文の多いロールケーキ』だとか。一日限定20セットなのに、私が注文した3時過ぎにはまだありました。(『注文』は多い、のか?)米粉たっぷり、バターなしで軽めのロールケーキでした。

 

文学館を出て、街歩き。残暑が戻ってきていて、日傘を持ってこなかったことを悔やみましたが、「えーい、ままよ!」と割り切って歩きだします。(”歩くのだいっすきー、どんどんいーこーうー♪”です。)
家で見ておいた地図を頭に、北北西へ進み、吉祥寺へ。私は一人で都内に出ると、そこからは電車やバスをほとんど使わずに移動するので、数キロ~10キロを歩くことも珍しくありません。江戸時代の人はもっと驚くような距離を日常的に歩いていたらしいですが、今ではそんな人はいませんね。

でも古い建物を見つけるのは楽しいし、きれいに手入れされた庭木を眺め、お稲荷さんに寄り、気になるお店があったら覗いて……と、ちょっとした冒険気分を味わうことができます。

ようやくたどり着いた、暮れなずむ井の頭公園を散歩し、池の端のベンチで休憩。まだボートに乗っている人がいます。池のそばに絵になりそうなところがありましたが、暗くてよく見えません。次はもう少し明るいときに来なくては。

 

電車に乗ろうと駅へ向かったのですが、駅の近くで小さいけど何か見つかりそうな古本屋さんを発見。一度入ると長くなるからどうしようかと迷いましたが、所詮は古本屋を素通りできない人間です。じっくりと店内を見て回り、鏑木清方の画集(500円)と、『仮面』について研究者たちが語り合ったシンポジウムをまとめた本(900円。面白そうだけど読むのは大変、大変だけどこれは絶対私には面白い、直感がそう言ってる、ああ!と悩んだ)を買いました。あーあー、誕生日にも買うのが古本とは、私って本当に本が好きなんだなぁ、と呆れるやら、おかしいやら。

家に帰って重い荷物をおろし、袋から本を取り出してどさっと置きます。そして自分もどさっと椅子に座ります。ああ、歩いたこと! でも楽しい日だった!

 

それから紅茶を飲んで、ほうっと一息つきます。小中学生の頃は「家に帰るまでが遠足」などとつまらないことを教師によく言われたものですが、私にとっては家に帰ってお茶を飲むところまで、でした。今でもそれは変わりません。

家に帰ったら、(家人の都合でコーヒーになることもありますが)まずは紅茶!

それがいつしか、冒険から帰った時の『鉄則』となっています。
 

コメントをお書きください

コメント: 2
  • #1

    ボッコちゃん (火曜日, 17 9月 2013 07:38)

    まずはお誕生日おめでとうございます。こちらではお誕生日は日本以上に大切にされております。親戚中が集まって盛大にお祝いするようです。でも自分のお誕生日を自分らしく過ごすのも良いですね。奈々さんらしい過ごし方かと思いました。宮沢賢治の記念館に以前行きましたが、実にいろいろの事をやったりしていて驚いたことを思い出しました。天文にも詳しかったようですし。いろんな人が描いた賢治の童話の原画展、私も見たかったです。
    原画を

  • #2

    nana (水曜日, 18 9月 2013 13:50)

    ボッコちゃん:ありがとうございます。おかげさまで27歳です。こんなになるともうケーキの上にろうそくを並べるのも大変でしょうね。
    原画展、藤城清二の影絵の資料などがあればいいなとちょっと期待していたのですが、無くてちょっと残念。資料館自体が小さいので、そんなに展示できないというのもあるのでしょうが、もっとたくさん見たかったです。でもいつか宮沢賢治の作品世界を日本画でも描いてみたいと思っていたので、その参考には十分なりました!
    宮沢賢治記念館は、そこで行われたチャリティ・コンサートのポスターに作品から着想した銀河鉄道の絵などを描かせてもらったという御縁があるものの、実際に訪れたことがなく、行ってみたいとずっと思っているところのひとつです。愛用していたというチェロも見てみたいし、やっぱり行きたいな。