風呂吹き大根

京都の錦市場へ行くと、必ず寄るのが『有次(ありつぐ)』。日本料理用の調理器具が売られているお店です。本職向けの質の高い道具が多く、ここに来るといつも、「やはりいいものを作るにはいい道具が必要なのだなぁ」と思います。

 

店内には、サメ肌のわさびおろし、馬毛の濾し器、銅の雪平なべ、精巧にできた抜き型など、ほれぼれするような職人技の道具が沢山ありますが、中でも目を引くのはやはり包丁でしょう。壁の一面をショーケースにして、ありとあらゆる用途の包丁がずらりと並んでいて壮観です。日本刀のように長い包丁から、何に使うかもわからない妙な形の包丁まで、さまざまな包丁があり、包丁ひいては日本食の、奥深さがうかがえます。

 

初めて来たときから、いつかここで包丁を買おうと思っていたのですが……とうとう買ってしまいました!

一般家庭向けの『平常一品』というシリーズから、包丁と小回りのきくぺティナイフの二丁を選びました。一般向けとはいえ、職人さんが一点ずつ作った包丁です。刃には緊張感が漂い、ひと目で非常によく切れる刃物であることがわかります。『有次』と刻まれた銘にも、技術の高さと職人の誇りが感じられるようです。

 

京都から帰って来て早速、この包丁を使って料理をしてみました。

切れる刃物なだけに、今まで使っていたうちのなまくら包丁とは緊張感が違います。おそるおそる手にして、「ようし!」と気を入れて料理し始めたものの、大根がすとん、とほとんど抵抗なく切れたときは驚きました。今切ったのは本当に大根だったのか?と胸に手を当てて考えたいくらいでした。

大根の皮ををくるくると剥いたら、これまでで一番うすく剥く事が出来ました。剥いた皮を光に透かして繊維をつくづくとながめ、その美しさを堪能。まさか私でもこんな薄く剥けるとは。「やはり道具よね」と、ひとりごちました。

 

さらに放射状の部分まで大根を剥き、風呂吹き大根を作りました。錦市場で買った鰹節でだしを取り、蒸した大根を煮て、味噌だれ(この白味噌も京都のお店で購入)をかけます。

単純だけど滋味のある味わいです。

 

ついでに剥いた部分の大根を千切りにし、人参と合わせてなますも作りました。千鳥酢を使ったら、さっぱりと上品な仕上がりになりました。最初はなますをつくるつもりではなかったのですが、あまりによく包丁が切れるので作ってみたくなったのです。切れる包丁があると料理が楽しくなるようです。

 

ちなみに、有次では包丁を買うと、無料で好きな文字の銘を入れてくれます。私は『奈々』と入れてもらいました。鏨(たがね)で刻まれた自分の名前を見ると、しっかり使いこなし、使いこんで、おばあさんになるまで大事にしなければという気持ちがわいてきます。