誰かに届けたい一冊

朝日新聞『GLOBE』に、私が密かに楽しみにしている、世界各地の書店のベストセラーを紹介するコーナーがあります。今朝は『ロンドンの書店から』でした。

その記事によると、古本をばらまく運動が、イギリスでちょっとした話題になっているとか。

読み終えた本にメッセージを添えて、公園のベンチやカフェの机などにそっと置き、見知らぬ誰かにその本を届けよう、というものです。ちなみにゴミと間違われないよう、専用のステッカーを貼ります。 

発案者はガーディアン紙。なんとも夢のある運動です。

 

本を読んで、温かい気持ちになったり、何か考えさせられたりしたとき、「この本を誰かに読んでほしい!」と思うことはありますが、家族や本友達に貸すくらいがせいぜいです。それを見知らぬ誰かに届けるという発想が面白いし、自分がどこかで本を見つけて(スーパーのセロリの間に隠されていた例も)、どきどきしながら手にして読み始めるのも素敵です。

自分の好みの本であることは稀でしょうが、そうやって自分の手に誰かのメッセージつきの本が届くことを考えるだけで、わくわくします。

どこかのギャングよろしく、「ロマンはどこだ?ここだ!」などと叫んでしまいそうです。

 

 

さて、自分ならどんな本を置くでしょう。あまり難しすぎたり、マニアックすぎたら、見知らぬ誰かの「手」には届いても、「心」にまで届かないかもしれません。でも、大多数の人には読み重り(持ち重り、から考えた造語)しそうだけど、本好き・物語好きにはたまらない!という長編も置いてみたい……と、想像が膨らみます。

 

一般向けには、

北村薫『スキップ』『街の灯』

梨木果歩『家守綺譚』

伊坂幸太郎『陽気なギャングが地球を回す』『重力ピエロ』『死神の精度』(……どうも伊坂作品が多いですね。『魔王』も大多数の人に読んでもらいたい気もします)

 

児童文学ながら大人でも楽しめそうなものなら、

角野栄子『魔女の宅急便』

フィリップ・プルマン『黄金の羅針盤』

エリザベス・コストヴァ『ヒストリアン』

上橋菜穂子『獣の奏者エリン』

 

暗くて重いミステリや幻想的な長編もハードボイルドも平気で、ウィットある会話が好き、マニアックで結構!なんて人がいれば(いるかな?)、

アルトゥーロ・ペレス・レベルテ『フランドルの呪画』

ジョン・ファウルズ『魔術師』

ジョン・ダニング『幻の特装本』

恩田陸『三月は深き紅の淵に』

 

読書家が書いたエッセイも面白い。

久世光彦『花迷宮』

向田邦子『眠る杯』 

恩田陸『小説以外』 

 

他にもおすすめエッセイとして、

ラフカディオ・ハーン『日本の面影』

 

変人の変人による変人のための(!)痛快なエッセイなら、

カート・ヴォネガット『国のない男』

エドワード・ゴーリー『どんどん変に…』(正しくはインタビュー集)

 

そうそう、シリーズ物の1巻目を読ませるのも面白いですね。

佐伯泰英『陽炎ノ辻』

北村薫『空飛ぶ馬』

小野不由美の『月の影 影の海』

京極夏彦『姑獲鳥の夏』

アガサ・クリスティ『スリーピング・マーダ―』等々。

そのシリーズにはまってしまって、続きを次々と追いかけずにいられなくなる姿を想像すると、ものすごくいい悪戯をしかけた気になれます。……意地が悪いかな。

 

でも結局は、平易でこころに届く言葉を遣う人の本がよいのかも。それならうってつけは、

長田弘『世界は一冊の本』『すべて君に宛てた手紙』『食卓一期一会』(詩集)

レイチェル・カーソン『センス・オブ・ワンダー』

 

日常を見る目を変えるきっかけとして選ぶなら、大岡信『折々の歌』なども捨てがたい。

 

色々と考えてみたけれど、星新一のショートショートを一冊、さりげなく喫茶店の一番奥の席に置いてくるのが、いちばん粋かもしれない。あ、いやエドワード・ゴーリーの『うろんな客』も洒落てるな…。

何の本をどんなところに置いてくるか。この空想だけで、かれこれもう数時間楽しんでいます。

 

 

記事を読んで、いつになくハイになっていた私は、そばを通りかかった家の者に「これを日本でもやったらどうなるかな!」と訊きました。すると、にべもなく「ゴミ」のひとことが。(きっとゴミと間違えられちゃうよ、の意です。)

やっぱり、そうなのでしょうか…むむむ。

 

でももしうまくいったら?

本離れが甚だしい昨今ですが、これが本の魅力を見直すきっかけになりはしないでしょうか。また、ささやかながら夢のある冒険が隠されていること、だれかのために本を選びそこに置いた人がいるという事実だけでも、殺伐とした社会・灰色の街が明らむ気がします。

 

誰かのメッセージを秘めて、そっと街に置かれた本たちがちいさなキャンドルになって、うす暗く殺風景なビル街に、ぽつぽつと灯されている光景が思い浮かびました。

 

 

 

 

 

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コメント: 1
  • #1

    古本屋 (日曜日, 13 11月 2011 05:47)

    最後のキャンドルのイメージがきれいだね。
    ご参考↓
    http://www.flickr.com/search/?q=guardian%20book%20swap