イギリスの旅 5

エディンバラを後にし、再び鉄路を下ります。目指すはヨークシャー・デイルズ国立公園に抱かれた小さな田舎町。また車内で紅茶を買いました。これでイギリスに来てから紅茶を飲むのは15回目(15杯ではない)!!

 

目的地が近付くと、電車の窓からでも、なだらかな緑の丘が広がっているのがわかります。

これがヨークシャーの景色、たしかにヨークシャーティーのパッケージに描かれている通りの緑の丘です。

ホテルの部屋は白い家具と赤いテキスタイルでまとめられたロマンティックな部屋で、私が背中から下ろしたバックパックはとても浮いていました。“この部屋にはあの鞄で来たかった!”と、私の部屋(自宅の)にある、骨董品屋で見つけた革のトランクを思ったほどです。

 

とにかく荷物を置き、ムーア(「荒野」と訳されることが多い)を散策。エニシダ、アザミ、ブラックベリーはみな刺だらけですが、道が整備されているので引っ掻かれることはありません。登るにつれて、植物はシダとヒースばかりになっていきます。

初秋の今はシダもヒースもほとんど枯れかけていましたが、たまにまだ咲いているヒースに出会います。風が常にびゅうびゅうと吹きわたっていて、たまに風花のように雨が飛んできます。羊がちらほらいてヒースを食んでいる様子。

 

木が3本、ギリシャ神話の三美神のように立っている場所まで登って振り返ると、緑の大地がゆるやかな起伏を描きながらどこまでも広がっている、美しい景色が目に飛び込んできます。

"こんな美しいものを私なんかが見ていて良いのでしょうか。分不相応ではありませぬか。"、と誰か(おそらくは神様とかそういう誰か)に思わず訊ねたくなるような眺めです。卑屈な意味ではなく、ほんとうに自分が見ていて良いものなのだとは、信じられないくらい美しいのです。

不相応な宝物を手にしているような気がしてしまい、私のものではないけれど、今この手の中にあるこの宝物をどうしていいかわからずにいる、という感じ。

 

うす青い水晶のように澄み切った空気が、遠くの山々の上まで広がり、ここにも吹きわたってきている。まるで生きているかのように緑の気配のする風に髪を遊ばれ、押し寄せるような風の力を全身に感じながら、眼下の光景に見とれていると、叶わないことをつい願ってしまう。

人であることをやめてこのまま風になって渡っていけたらいい、と。