雛人形

昨年、骨董市で買った小さなひな人形は、いくつか首がなかったり、ぼんぼりがなかったりしたので修理しました。(このひとつ前のブログ記事に写っているガラスケース入りのです。 )

そしたらなんと、それを見た方から、古い雛人形の修理を頼まれました。 これは気合が入ります。

 

まずはお雛様の髪の毛。乱れて、ちょっとホラーだったのですが手で梳いても直りません。近くの人形店を訪ねたら、おじさんが人形の髪を加湿器の湯気にあてて、「完璧にはいかないけど」と、整えてくださいました。そんな裏技があったのかと感心しきり。

それ以外はなんとか自力で修理しようと思い、いろいろ工夫してあつらえました。

 

・髪を縛っていた糸をほどき、紙を撚ってひもを作って縛りなおす。

・木で台座を作り、黒い漆を塗る。その上に載せる台を作り、布を張る。

・珊瑚に見立てたビーズと真鍮のアクセサリーパーツ(わざと壊して一部を使用)で冠を作る。

・紙で烏帽子の形を作り、棒を通しビーズを留め、全体に漆を塗り、あご紐をつける。

・竹を削って杓を作り、薄墨を刷り込んで古色を出す。

・厚紙に和紙を張り、松の絵を描いて扇を作る。     ……などなど。

 

「仕事の片手間にちょっとやってくれればいい」とのことでしたのに、ドールハウスのようで楽しく、ついつい余計に手間をかけてしまいました。 我ながらあきれる凝り性です。ここまできたら「凝り症」かもしれません。

 

最初、人形をお預かりしたときはカッチリとして古めかしい印象だったのですが、手をかけているうちに思いがけず愛着がわいてきてしまって、自分でもちょっと戸惑ったほどでした。

特にお二人(お雛さまとお内裏様)への印象が変わったのは、修理の途中、机の上に置いたまま部屋を出て、また戻ってきたときのこと。横に並ぶでも差し向いでもなく、2人で45度くらいに向き合って座っている様子がなんだかとても自然な「夫婦」らしい姿に見えたのです。なんでもない会話をぽつりぽつりしているような。

 

「あの子、ずいぶん熱心に私たちの小物を作っているわね」

「もうそろそろ戻ってくるだろうさ」

 

そんな会話でもしているように見えたのです。お雛様には、すましていて、完全な自分たちの世界を作り上げているイメージがあったので、そんな風に穏やかな夫婦然として見えたことが新鮮でした。この時から、(人からお預かりしたものなのに)なんだか親しみと愛着を覚えてしまったのです。

 

昨日、依頼主の方にお渡ししました。60年くらい前の古いお雛様に、私の作った小物は新しすぎないかと心配していたのですが、喜んでいただけたのでほっとしました。

こうして、「さぁこちらの台座にお座りくださいませ」「どうぞこの冠をお被りになられて」 「新しい扇もご用意してございます」と、せっせと采女になったかのように尽くしてきたお雛様は、持ち主のお宅へと、お発ちになられました(ここはしっかり二重敬語。なんたって“やんごとなき”方々です)。

 

が、代わりにお礼として頂いた手編みのマフラーが残りました!リバーシブルになっていて、表はピンクっぽいマルチカラー、裏はチャコールグレイ。手が込んでいるだけでなく、とってもあったかいマフラーです。

手作りのプレゼントをいただく機会は、大人になるにつれて少なくなっていくようで、ほんとうに久しぶり。やっぱり嬉しいものです。散歩のお供にさっそく使っています。