シンガポール(後編)

シンガポールにいると、日本では馴染みのない宗教に接することができて、なかなか興味深い。けれど、イスラム教やヒンドゥー教などについて、自分がほんとうに何も知らないことを痛感させられました。

 

今回の旅に持って行った本は2冊。沢木耕太郎の『深夜特急』、片倉とも子『イスラームの日常世界』。

前者は言わずと知れた旅行記。

そして後者は、イスラム教の教えの概要や、人々の価値観や考え方を、実際の宗教儀式や生活習慣に触れながらわかりやすく紹介した新書です。

そこで初めて、イスラム教徒に対して抱いていたイメージが、メディアを通して知らされる一部の過激派や武力闘争など偏った情報に依っているものであったことに気付かされました。

ムスリムの女性が抑圧されているというイメージも、またムスリムは他の宗教や価値観を認めないという偏見も、次々とベールをめくるように剥がされていき、残ったのは、敬虔で、異教徒に対しても寛容で、素朴な人々の姿。

これが、私が漠然と恐れ、得体のしれないと思っていたイスラム教徒なのか?と衝撃を受けました。本当に恐れるべきは、無知であることかもしれない。

 

特に面白かったのは、イスラム教の教えでは、異なる考えを持つ人や知らない人と積極的に対話しなさい、といっていること。そのために同じモスクにばかり通わず、できるだけいろんなモスクに行くよう勧めてさえいるといいます。閉鎖的なイメージはここでも覆されます。

 

……知らなかった、というか知ろうとも思わなかったイスラム教のことや、それを信仰する人々の姿に興味が湧いてくる。 ともすると鈍りがちな知的好奇心を掻き立ててくれる良書でした。旅をして知らなかったものと出会い、本を読んでまた新たな事を知るというスパイラルはやっぱり刺激的です。